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星影のステラ(Stella by Starlight)

タイトルに「星(star)」という単語を含むスタンダードナンバーの多いのは、夜空に煌めく星の美しさ、神秘的な魅力などを考えれば至極当然と言えよう。

 

実際、特に意図したわけでもないのに、本サイトでも「スターダスト=星屑(Stardust)」「星に願いを(When You Wish Upon A Star)」の二曲を既にご紹介しているが、今回はその例をまた一つ重ねようと思う。

 

「星影のステラ(Stella by Starlight)」だ。

 

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なお、「星影」とは「星の光」の謂いである――などと言わずもがなのことを敢えて書くのは他でもない、白状すると、私はこの曲に最初に出会った中学生の頃、原題の意味は捉えられたものの、それがなぜ「星影」なのかが理解できなかったからである……

 

ついでに蛇足を加えれば、"stella"はラテン語で星を意味し、その流れを汲む現代西欧語でも同様の義に使われることもご承知の通りである。

 


それはさておき、「星影のステラ(Stella by Starlight)」もまた、元々はそれ単独の音楽作品としてではなく、1944年に公開された映画「呪いの家(原題:The Uninvited)」のために書かれた。

 

原曲はインストゥルメンタルで、作曲者ヴィクター・ヤング(Victor Young)の率いるオーケストラにより、映画において先ずオープニングで演奏される。

 

 

この映画は、タイトルからも想像されるように、ホラーを基調としながらそこにロマンスとミステリーの要素を加味したものだが、そのヒロインであるステラのリクエストに応じて、彼女に魅せられた音楽家リックが弾いて聴かせるところでも使われている。

 

もっとも、それは即興で旋律を紡ぎ出しながらのことで、ごく最初の部分を弾き、「これは『星影のステラ』、君に捧げる曲だ、」と言ったかと思うと、リックは他の暗澹たる曲に切り替えてしまう。

 

すなわち、「星影のステラ」は映画において前面に華々しく姿を見せるわけではないのだが、その美しい印象的な旋律は、やはりストーリーに見事な点景を添えていると言うべきだろう。

 

 

 

 

 

さて、「呪いの家」公開から2年後の1946年、ネッド・ワシントン(Ned Washington)によって「星影のステラ」に詞が付され、翌年、フランク・シナトラ(Frank" Sinatra)、ディック・ヘイムス(Dick Haymes)、デニス・デイ(Dennis Day)の3人のヴォーカリストがそれを吹き込んだレコードをリリースした。

 

特にフランク・シナトラがアクセル・ストーダル楽団とともに録った盤はヒットとなり、1952年にチャーリー・パーカーにより一層ジャズの領域に引き寄せられて後、バド・パウエル(Bud Powell, p)、マイルス・デイヴィス(Miles Davis, tp)、デクスター・ゴードン(Dexter Gordon, ts)、ビル・エヴァンス(Bill Evans, p)、オスカー・ピーターソン(Oscar Peterson, p)といったモダン・ジャズの巨匠に好んで取り上げられたほか、アニタ・オデイ(Anita O'day)、エラ・フィッツジェラルド(Ella Fitzgerald)などにも歌われ、スタンダードナンバー中のスタンダードナンバーとも言える位置を占めるに至ったのである。

 


最後に、拙訳を付して詞をご紹介するとともに、二つのパフォーマンスをお聴き頂いて本稿を終えよう。

 

[Verse]

 

Have you seen Stella by starlight

星の光を浴びたステラを見たなら

Standing alone with moon in her hair

月を髪に透かして一人たたずむ

Have you seen Stella by starlight

そんなステラの姿を目にしたら

When have you known rapture so rare

他の喜びなど色褪せるはず

 

[Chorus]

 

The song a robin sings

コマドリはさえずり続ける

Through years of endless springs

尽きることのない永遠の春に

The murmur of a brook at evening tides

夕暮れの小川は波立ちざわめく

That ripples through a nook where two lovers hide

恋する二人が身を潜める片隅で

 

That great symphonic theme

見事に調和した調べの如き

That's Stella by starlight and not a dream

星の光を浴びたステラは現実

My heart and I agree

心の底から思う

She's everything on this earth to me

私にとって彼女はこの世のすべて

She's everything that you'd adore

そして誰もが崇拝する存在だと

 


アニタ・オデイ(Anita O'Day)
バド・パウエル(Bud Powell)