ジャズ on the net|JAZZの名曲・名演を動画で試聴

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時さえ忘れて(I Didn't Know What Time It Was)

"I Didn't Know What Time It Was"に対して付された「時さえ忘れて」という邦題も、見事なものの一つだろう。

 

この楽曲を生み出したのはブロードウェイを代表するヒットメーカーの二人、作曲がリチャード・ロジャース(Richard Rodgers)、作詞はロレンツ・ハート(Lorenz Hart)。

 

となれば類推される通り、これは1939年に公開されたミュージカル「女学生の恋(Too Many Girls)」のために書かれた一曲である。

 


このことは知っていたものの、年代的に当然ながらこのミュージカルは未観、そこで少し調べたところ翌年にはジョージ・アボットの手で映画化もされているとのことなので、詞の訳出に当たり慎重を期すためにも観てみようと考えたのだけれど、遺憾ながら果たせなかった。

 

 

 

 


ともあれ、舞台に先立ってベニー・グッドマン(Benny Goodman)がルイーズ・トビン(Louise Tobin)をフィーチャーして録音したことを皮切りに、その後も数多の優れたアーティストにより綿々と取り上げられたことで、一般聴衆の間にも広く長く聴き継がれることとなったのである。

 


仮に"Too Many Girls"は観ずとも、この曲の音楽作品としての価値は容易に聴取できるであろうし、その詞からはこの楽曲が劇の中で占めているであろう位置も自ずと理解されるように思う。

 

<Verse>

 

Once I was young
まだ若かったころ
Yesterday, perhaps
昨日のことのよう
Danced with Jim and Paul
ジムとポールと踊って
And kissed some other chaps
他の子ともキスをしていた

 

Once I was young
若かったけれども
But never was naive
純真ではなかった
I thought I had a trick or two
誰の心も自由にできる恋の秘訣を
Up my imaginary sleeve
知っていると思っていた
And now I know I was naive
いま思うと馬鹿だったわたし

 

<Chorus>

 

I didn't know what time it was
時さえ忘れたあの瞬間
Then I met you
あなたに出逢い
Oh what a lovely time it was
そして知った素晴らしく
How sublime it was too
崇高な気持ち

 

I didn't know what day it was
時さえ忘れたあの日
You held my hand
わたしの手を包んでくれた
Warm like the month of May it was
まるで五月の陽射しのような
And I'll say it was grand
至福のその温もり

 

Grand to be alive, to be young,
生きていて、若く、夢中で、ただ
to be mad, to be yours alone
あなたのものであるという幸せ
Grand to see your face, feel your touch,
あなたの顔を見、あなたに触れられ
hear your voice say I'm all your own
僕は君だけのもの――と言う声を聞いて

 

I didn't know what year it was
時さえ忘れたあの年
Life was no prize
平凡な人生だけれど
I wanted love and here it was
愛を求めてあなたの輝く
Shining out of your eyes
瞳の中にそれを見つけた

 

I'm wise and I know what time it is now
でも今はわかっている、この時この瞬間を

 

 

最後に、いつものように二つのパフォーマンスをご紹介するが、他にもチャーリー・パーカー(Charlie Parker, as)、エラ・フィッツジェラルド(Ella Fitzgerald, vo)、ソニー・クラーク(Sonny Clark, p)、スタン・ゲッツ(Stan Getz, ts)、アート・ブレイキー(Art Blakey, ds)などによる数多の名演がある。

 

https://www.youtube.com/watch?v=oooH4HxXw2I

https://www.youtube.com/watch?v=ggo6PILzT_k

 

 

 

 

ホワッツ・ニュー(What's New)

ウェブサイトなどでよく目にする、「新着情報」といった意味の"What's New"をタイトルとするスタンダードナンバーがある。

 

もっとも、追ってお分かりの通り、文法上の用法、意味合いは異なる。

 

 

この"What's New"は、ビング・クロスビー(Bing Crosby)による大ヒットやリンダ・ロンシュタット(Linda Ronstadt)が1980年代にこれを歌ったことなどにより、ヴォーカル曲というイメージが浸透しているが、元々はインストゥルメンタル曲として書かれた。

 

作曲者はボブ・クロスビー(Bob Crosby、本名:George Robert Crosby)率いる楽団でベースを担当していたボブ・ハガート(Bob Haggart)。

 

同僚のトランペット奏者ビリー・バターフィールド(Billy Butterfield、本名Charles William Butterfield)の演奏を念頭に置いた作品で、当初は「アイム・フリー(I'm Free)」として世に出、作曲されたその日にボブ・クロスビー楽団がレコーディングしている。

 


そして翌年、ジョニー・バーク(Johnny Burke、本名John Francis Burke)により詞が付されて、これを同楽団とヴォーカリストのテディ・グレイスが現行タイトル"What's New"を冠して録音、さらに上に述べたビング・クロスビーとジョン・スコット・トロッター(John Scott Trotter)楽団によるパフォーマンスもあって、斯界に盤石の位置を占めることとなったのである。

 

 

 

 


その詞は次のように歌う(付:拙訳)。

 

What's new?
お久しぶりね?
How is the world treating you?
あれから上手くいってるの?
You haven't changed a bit
あなたは少しも変わってない
Handsome as ever I must admit
あの頃と同じように素敵よ

 

What's new?
お元気だった?
How did that romance come through?
あの人とはうまくいってるの?
We haven't met since then
あなたとはあれ以来だけど
Gee, but it's nice to see you again
やっぱり、会えてうれしいわ

 

What's new?
ごめんなさい
Probably I'm boring you
こんな話は退屈よね
But seeing you is grand
でも本当に嬉しいの
And you were sweet to offer your hand
手を差し伸べてくれたあなたに会えて
I understand
わかっているわ

 

Adieu
もうお別れね
Pardon my asking what's new
あれこれ聞いてごめんなさい
Of course you couldn't know
気付かないかもしれないけれど
I haven't changed
わたしも変わってないの
I still love you so
今でも愛しているの

 


この詞の追加は、同曲を取り扱う音楽出版社の注文によるとされるが、ビング・クロスビーはボブ・クロスビーの兄で、そこからの働き掛けもあったのかもしれない。

 

https://www.youtube.com/watch?v=4cnn_gosCqg

https://www.youtube.com/watch?v=0mGyHH2yluk