ジャズ初心者喫茶|名曲・名演を動画で試聴

Jazzの歴史から代表的アーティスト、名演奏、スタンダードナンバー、おすすめの名盤まで―YouTubeの動画を視聴しながら、ジャズを愉しむためのツボをご紹介します。

時の過ぎゆくままに(As Time Goes By)

「時の過ぎゆくままに」という、非常に味のある邦題に訳されている"As Time Goes By"もまた、元々ブロードウェイ・ミュージカルのために書かれた曲である。

 

作詞・作曲ともハーマン・フップフェルド(Herman Hupfeld)の手になり、1931年、「エブリバディズ・ウェルカム(Everybody's Welcome)」の挿入歌として、劇中ではフランシス・ウィリアムズ(Frances Williams)によって歌われた。

 

しかし、これもまた現在スタンダードナンバーとして定着している曲には珍しくないことだが、「As Time Goes By」もミュージカル公開時にはほとんど注目されず、後に映画の中に使われて一躍脚光を浴びることとなったのである。

 


その映画とは、1942年に公開された、古典的名作としてこれを知らない映画ファンはいないであろう、そしてまた、数々の名台詞が随所に鏤められていることで有名な、ハンフリー・ボガート(リック)とイングリッド・バーグマン(イルザ)主演のアメリカ映画「カサブランカ(Casablanca)」である。

 

その台詞の一部を挙げれば、

 

「君の瞳に乾杯。」(リック)
「昨日は何をしてたの?」―「そんな昔のことは覚えていない」(リック)―「今夜会える?」―「そんな先のことは分からない」(リック)
「自分のことがわからないの。あなたが決めて。」(イルザ)

 

などなど……

 

カサブランカ」公開当時は、銀幕のスターが極めて特別な存在として、この類の台詞を堂々と口にしており、そんな時代への懐旧を籠め、後年沢田研二が「ボギー、あんたの時代は良かった」と詠ったわけである。

 

 

 

 


さて、映画の中では、リックの経営するカサブランカのナイトクラブへ偶然やって来たかつての恋人イルザが、サムの姿を目にして想い出のこの曲をリクエストする。

 

しかし、リックは彼女のことを思い出さないよう、この曲の演奏を禁じており、それを破ったサムを叱責するために現れてイルザと再会――というシーンをはじめとして、効果的に使われている。

 

 

なお、冒頭で非常に味があると述べた「時の過ぎゆくままに」との邦題だが、歌詞の内容からすぐ分かるように、これは原題の意味を正確に反映しているとは言い難い。

 

これは到底見過ごすことのできない欠点であり、この瑕疵ゆえ、日本語としては決して悪くないものの、名訳との評価を博せないのは致し方ないだろう。

 

<Verse>

This day and age we're living in
我々の生きるこの時代は
Gives cause for apprehension
様々な不安を引き起こす
With speed and new invention
速さや新しい発明のほか
And things like third dimension
三次元の世界についても

 

Yet we get a trifle weary
そんなことはもうたくさんだ
With Mr. Einstein's theory
アインシュタインの理論もさ
So we must get down to earth at times
だから時には地に足を着けて
Relax and relieve the tension
息を抜いて緊張の糸を解こう
And no matter what the progress
どんな進歩が果たされようと
Or what may yet be proved
何がこれから証明されようと
The simple facts of life are such
人生のもっとも単純な意義は
They cannot be removed
消し去ることができないのさ

 

<Chorus>

 

You must remember this
心に覚えておくべきだ
A kiss is still a kiss
キスはいつもキスだし 
A sigh is just a sigh
溜め息はやはり溜め息
The fundamental things apply
人の本質は変わらない
As time goes by
たとえ時が流れようと

 

And when two lovers woo
恋人同士は求め合う時
They still say, "I love you"
"愛しているよ"と囁く
On that you can rely
だから信じられるのさ
No matter what the future brings
どんな未来が来ようと
As time goes by...
たとえ時が流れようと……

 


今回は映画に関連する記述が多くなったこともあるので、視聴頂くパフォーマンスもこれに因んだものを二つご紹介したい。

 

ドーリー・ウィルソン(Dooley Wilson)―「カサブランカ」より
デクスター・ゴードン(Dexter Gordon)―「ラウンド・ミッドナイト」より

 

 

 

 

そりすべり(Sleigh Ride)

この時季、街へ出ると(実はあまり出ないのだけれど……)、さまざまな場所で、同じ曲を、違った形で耳にすることが多い。

 

そんな曲には、タイトル・メロディともにすぐピンとくるものがある一方、メロディは耳に馴染んでいても、そのタイトルの方は思い浮かばない――あるいは知らない――というものも少なくないように思う。

 

この後者の一つとして、「そりすべり(Sleigh Ride)」を挙げてよいだろう。

 


「そりすべり(Sleigh Ride)」はもともと、アメリカの作曲家ルロイ・アンダーソン(Leroy Anderson)が1948年に発表したインストゥルメンタル作品だが、後に同じアメリカの作詞家ミッチェル・パリッシュ(Mitchell Parish)の手で歌詞がつけられた。

 

なお、作曲者は、ロイ・アンダーソン(Roy Andersson)というスウェーデンの映画監督とは無関係、紛らわしいのでご注意を。

 


その詞が最初に歌われたのはジョニー・マティス(Johnny Mathis[John Royce Mathis])によってで、「夏の日の恋」などで知られるイージーリスニング界の巨匠パーシー・フェイス(Percy Faith)のオーケストラをバックに従えての極めて豪華なものだった。

 

そういえば、こちらにもパーシー・ヒース(Percy Heath)というよく似た名前のジャズ・ベーシストがいる……

 

 

 

 


ところで、この「そりすべり」は、タイトルをはじめ、オリジナルのインストゥルメンタルの情調、さらに詞の内容、いずれも冬をモチーフとしてはいるものの、決してクリスマスに特化した作品ではない。

 

ここでその詞を、拙訳を付してご紹介しておこう。

 

Just hear those sleigh bells jingling,

そりの鈴が響いてきたぞ

Ring ting tingling too

リンリン、ティンティン

Come on, it's lovely weather

さあ行こう、君と一緒に

For a sleigh ride together with you

今日は素敵なそり日和

 

Outside the snow is falling

おもては雪が降っている

And friends are calling "yoo hoo,"

友達は浮かれてユーフー

Come on, it's lovely weather

さあ行こう、君と一緒に

For a sleigh ride together with you.

今日は素敵なそり日和

 

Giddy yap, giddy yap, giddy yap,

ハイヨー、ハイヨー、さあ走れ

Let's go, Let's look at the show,

そりで景色を見に行こう

We're riding in a wonderland of snow.

不思議な雪の国のショウ

 

Giddy yap, giddy yap, giddy yap,

ハイヨー、ハイヨー、雄大

It's grand, Just holding your hand,

景色をしっかり掴むんだ

We're gliding along with a song

歌と一緒にすべっていく

Of a wintry fairy land

冬の妖精に満ちた世界を

 

Our cheeks are nice and rosy

頬はほんのりばら色に

And comfy cozy are we

乗り心地はよく快適さ

We're snuggled up together

ぴったりと寄り添おう

Like two birds of a feather would be

仲の良い二羽のように

 

Let's take that road before us

目の前の道をずっと辿り

And sing a chorus or two

声を合わせて歌いながら

Come on, it's lovely weather

さあ行こう、君と一緒に

For a sleigh ride together with you.

今日は素敵なそり日和

 

 

これからもお分かりの通り、当然冬の季節全般に亘って聴かれてよいわけだが、特にこの時季、クリスマスシーズンに盛んに取り上げられるようになったのは、直接的には、人々の気持ちを高揚させて商品なりサービスなりの購入を促進したい――との商業的動機からに違いない。

 

そして、その力を具えた演奏・歌唱に事欠かなかったからこそ、爾来綿々と継続しているのだろう。

 

実際、ビング・クロスビーエラ・フィッツジェラルドからカーペンターズマライア・キャリーまで、ジャズ、ポピュラーを含む広大なエンターテイメント界の数多のアーティストが、本作を取り上げているのである。

 


これら有名どころの名を挙げるだけでも、上の十分な証左になるとは思うが、ここではよりジャズ・テイストの強いパフォーマンスを二つご紹介して本稿を終えたい。

 

https://www.youtube.com/watch?v=YK-i8xfhZkw

https://www.youtube.com/watch?v=6U2K4A4r-Ng