ベース(1)―ポール・チェンバース、サム・ジョーンズ
今回もリズム・セクションの一画、ジャズ・ベーシスト(jazz bassist)をご紹介する。
ベース(bass)はドラムス(drums)と共にリズムの要を担う重要な楽器だが、その役割上、ベーシストが演奏の主役となることはそれほど多くはない。
しかも、ドラムスのような派手さもないため、一層目立たない存在ともいえるだろう。
その一方、ベースは旋律(メロディー:melody)を奏でることができるので、その気になればソロとして舞台に立ったりレコーディングを行うことも可能であり、実際、そのような活動を展開するアーティストも存在する。
ただ、ベーシストの特徴を知るには、やはり他の楽器とのコラボレーションにおいて、どのような基礎・土台を提供しているかを聴いて頂いた方がよいと思う。
そんな考えから、視聴曲としては合奏(アンサンブル:ensamble)を取り上げるが、ベース・ソロの作品も、機会があったらぜひ聴いてみて頂きたい。
では、代表的ベース奏者のご紹介に移ろう。
ジャズの歴史に残した足跡の大きさ、深さからいえば、ポール・チェンバース(Paul Laurence Dunbar Chambers, Jr.、1935年4月22日-1969年1月4日)を筆頭に挙げてまず間違いあるまい。
チェンバースの特徴は、その繊細で柔らかな音色にあり、弦を弓で弾くアルコ奏法やピチカートなども適宜取り入れた気品ある演奏で知られる。
無論、ジャズの背骨たるリズムの創造も盤石。
徒にモード・ジャズなどのムーブメントを追うことなく、オーソドックス・スタイルを保持しながら、1950年代後半から60年代前半にかけ、ドラムスのアート・テイラー(Art Taylor)、さらに後日ご紹介するであろうピアニスト、レッド・ガーランド(Red Garland)と共に、ジャズ黄金時代のさまざまなセッションを支えた。
彼のサポートを受けたアーティストを挙げれば、管楽器奏者に限っても、ジョン・コルトレーン(John Coltrane)、ソニー・ロリンズ(Sonny Rollins)、キャノンボール・アダレイ(Cannonball Adderley)、そしてマイルス・デイヴィスなど(Miles Davis)……
34歳を迎えることなく他界したチェンバースだが、この錚々たるビッグ・ネームを見るだけでも、ジャズ史におけるその位置がわかるというものだ。
・ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ(You'd Be So Nice To Come Home To)
※「女性ジャズ・ヴォーカル(1)」でご紹介した、ヘレン・メリルのパフォーマンスとも是非聴き比べて頂きたい。
続いてはサム・ジョーンズ(Sam Jones, 1924年11月12日-1981年12月15日)。
こちらはチェンバースとは異なり、極めて強く弦を弾くタイプのベーシストである。
その音色は、まるで原油のような粘りに満ちており、それがうねり流れながら、折に触れて岩を噛み、軋みを響かせる如き印象を受ける。
しかし、それは単なる無骨さではなく、チェロも奏する精妙な感性に裏打ちされたものであることを忘れてはなるまい。
ジョーンズの骨太な演奏は多くのアーティストに好まれ、チェンバース同様さまざまなセッションに参加した。
特にアルト・サックスのキャノンボール・アダレイ(Cannonball Adderley)、ピアノのボビー・ティモンズ(Bobby Timmons)などとの相性は抜群といえよう。
なお、ジャズ界には、ハンク、サドおよびエルヴィンの有名なジョーンズ三兄弟がいるが、サムはここには属さないのでご注意を。