ピアノ(1)―レッド・ガーランド
代表的なジャズ・アーティスト、続いてはピアニストをご紹介しよう。
ジャズの約100年の歴史を通じ、綺羅星のような名ピアニストが数多く現れ、例えプレイヤーその人は亡くなっても、彼らの作品は今なお我々を楽しませてくれている。
ピアノという楽器は、その音域の広さと表現の多様さにより、ジャズという舞台においても主役の座を多々担うことはもちろんだが、一方、リズム・セクションの一員として、いわば裏方に立って演奏を支える役割も果たす。
したがって、ジャズ・ピアニストについても、主役と裏方、両方の顔を持ったオールラウンダーがほとんどといってよい。
ただ、このシリーズでは「ジャズ・ピアニスト」をテーマとしているので、主役としての彼らにスポット・ライトを当てて曲を聴いて頂こうと思う。
さて、ジャズ・ピアニストの一人目はレッド・ガーランド(William "Red" Garland、1923年5月13日-1984年4月23日)。
ライト級のプロボクサーとして31戦30勝1敗の戦歴を残したという異色の経歴を持ち、大のボクシング・ファンであるマイルス・デイヴィス(Miles Davis)に着目されたのも、もともとはピアニストとしてではなくボクサーとしてだったとも言われる。
無論、ピアニストとしての力量も抜群で、「玉をころがすよう」と形容される流麗で艶やかなシングル・トーン、硬質でありながら柔らかさをも具えた絶妙なブロック・コードを駆使して、そのマイルス・クインテットの黄金時代を支えた他、アート・テイラー(Art Taylor, drumms)、ポール・チェンバース(Paul Chambers, bass)とともに著名なアーティストのリズム・セクションを努める一方、ピアノ・トリオとしても優れたアルバムを残した。
そんなレッド・ガーランドは、時に「カクテル・ピアニスト」と呼ばれる。
初めてこの呼び名に接したとき、私はただちに「様々なアーティストとのセッションにおいて臨機応変の演奏をなし、カクテルの如き千紫万紅の味わいを見せる」という誉め言葉だろうと理解した。
が、そもそもの謂れは、「バーでカクテルを傾けながら聴くべきBGMピアニスト」といった意味らしい。
しかし今でも、私は自分の感じ方のほうが相応しいと考えている(実際、単なるBGMピアニストをマイルスが重用するとは到底思えない)。
次のパフォーマンスをお聴きになって、皆さんはどうお取りになるだろうか。