いつか王子様が(Someday My Prince Will Come)
映画・文学にしろ音楽にせよ、その作品のタイトルを適正かつ味わい深く訳すのが簡単でないことは、あらためて言うまでもないだろう。
違和感を禁じ得ないような邦題がまかり通ってしまっている例が遺憾ながら見られるのも、そのためである。
そんな中、"Someday My Prince Will Come"を「いつか王子様が」としたのは、仮に原題が訳しやすいものだとしても、日本語の特質を活かした、簡にして要を得た名訳の好例であろう。
この、実に洒落た邦題を与えられた楽曲は、元々、1937年にディズニーが公開した同社(そして世界)初の長編アニメ映画「白雪姫(原題:Snow White and the Seven Dwarfs=白雪姫と7人の小びとたち)」の主題歌として作られた。
作曲したのはウォルト・ディズニーの専属ピアニストであったフランク・チャーチル(Frank Churchill)、作詞はラリー・モーリー(Larry Morey)である。
さて、この曲がジャズ・アーティストに好んで取り上げられるようになったきっかけは、1955年のアルバム「Jhon Williams Trio」ではないかと思う。
ここに名の出たジョン・ウィリアムス(Jhon Williams)は、その非凡な技量により将来を嘱望され、スタン・ゲッツ(Stan Getz)のグループにも一時加わっていたにもかかわらず突然消息が途絶えてしまったため、「幻の」と修飾語を付されて呼ばれる白人のジャズ・ピアニストで、スターウォーズの音楽を手掛けた有名なジョン・タウナー・ウィリアムズ(John Towner Williams)、さらにクラシック・ギターの大家ジョン・クリストファー・ウィリアムス(John Christopher Williams)とは別人であることを付記しておく。
その後、デイブ・ブルーベック(Dave Brubeck, p)やビル・エヴァンス(Bill Evans, p)、マイルス・デイヴィス(Miles Davis, tp)といったジャズの巨匠たちが、それぞれ独自の味付けで料理して世に問うたことから、ジャズのスタンダードナンバーとして定着したことに加え、ジュリー・アンドリュース(Julie Andrews)、バーブラ・ストライサンド(Barbra Streisand)などの歌声によってポップス界でも同じ地位を確立したのである。
このように多種多様なアーティストに取り上げられてきたことから、本曲の詞についてもいくつか(も)のバージョンがあるようだ。
それらの内、最もシンプルなものは次のように歌われる。
Someday my prince will come
いつか王子様が現れる
Someday we'll meet again
いつかまた会うはずなの
And away to his castle we'll go
そして一緒に彼のお城へ行って
To be happy forever I know
いつまでも幸せに暮らすの
Someday when spring is here
いつか春がきたときに
We'll find our love anew
もう一度愛を見つけるの
And the birds will sing
そのとき鳥たちは歌い
And wedding bells will ring
ウェディングベルが鳴るの
Someday when my dreams come true
わたしの夢が叶うのはその日
しかしジャズでは、次のようにより細やかな情景の描かれることが多いようだ。
Someday my prince will come
いつか王子様が現れる
Someday I'll find my love
愛する人に会えるはず
And how thrilling that moment will be
その瞬間はどんなにすばらしいかしら
When the prince of my dreams comes to me
夢の王子様が本当に現れたら
He'll whisper "I love you"
「愛してるよ」ってささやいて
And steal a kiss or two
わたしにそっとキスするわ
Though he's far away
その人はまだ遠くにいるけれど
I'll find my love someday,
いつかきっと見つかるはず
Someday when my dreams come true
わたしの夢が叶うのはその日
Someday my prince will come
わたしの王子様の現れるとき
まずはこれをヘレン・メリルの歌唱でお聴き頂こう。
https://www.youtube.com/watch?v=LfOplbDbC4Y
もう一つは、ビル・エヴァンスによるトリオ演奏。
と言っても、定盤中の定盤「Portrait In Jazz」からではなく、敢えて1964年に行われたライブでのパフォーマンスをご紹介して本稿を終えたい。
https://www.youtube.com/watch?v=a73xUcAFd9E