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サマータイム(Summertime)

アメリカの音楽を世界に知らしめた最初の、そして最大の功労者と言えば、誰もがジョージ・ガーシュウィン(George Gershwin)の名を挙げるのではなかろうか。

 

そのガーシュウィンは1935年、ミュージカルの嚆矢とされる、全3幕9場からなるオペラ「ポーギーとベス(Porgy and Bess)」を発表した。

 

原作はエドウィン・デュボーズ・ヘイワード(Edwin DuBose Heyward)が自らの居住地チャールストンを舞台にした小説で、ガーシュインはそのヘイワードおよび兄のアイラと協力してこの作品のオペラ化するに当たり、実際にチャールストンを訪れて黒人音楽を研究したと言われ、実際、その成果を作品に色濃く見ることができる。

 


「ポーギーとベス」からいくつものジャズのスタンダードナンバーが生まれたのはここに起因するが、それらの内で最も有名な曲は、同オペラにおいて三度歌われる「サマータイム(Summertime)」であろう。

 

まず第一幕の冒頭、漁師ジェイクの妻クララが幼い我が子をあやしながら歌い、次には嵐を押して漁に出た夫を心配しながら再びクララが詠ずる。

 

そして第三幕でいま一度、その嵐で両親とも失い孤児となった子どもを抱いた女給ベスにより歌われるのである。

 

すなわち、「サマータイム」は子守歌(lullaby)なのだ。

 

 

 

 


ここで、物語の原作者ヘイワードの手になるその歌詞を、拙訳を付してご紹介しよう。

 

 

Summertime
夏が来れば
And the livin' is easy
暮らしは良くなる
Fish are jumpin'
魚は跳ねて
And the cotton is high
綿花もふくらむ
Oh, your daddy's rich
そう、父さんはお金持ちで
And your ma is good-lookin'
おまえの母さんは美人なのよ
So hush, little baby
だから静かにお眠り
Don't you cry
泣いたりせずに

 

One of these mornings
いつかこんな朝に
You're going to rise up singing
おまえは歌いながら立ち上がり
Then you'll spread your wings
そして大きく翼を広げて
And you'll take the sky
空へと羽ばたく
But 'til that morning
けれどその時が来るまでは
There's a'nothing can harm you
何も心配することはないのさ
With daddy and mammy standing by
父さんと母さんがそばにいるから

 


上に述べた曲の使われ方からも想像される通り、この詞は最初のシチュエーションにおけるもので、第二、第三の場面では少しずつ悲壮な内容へと変容していく。

 

そしてガーシュウィンは、これらを包含して違和感を来たさない見事な旋律を、物語の情趣とも調和させる形で、「サマータイム」に与えている。

 

 

その特質は、千万言の説明より、実際に一聴して頂くに如くはない。

 

今回も二つ、個人的な趣味に因んで同曲のパフォーマンスをご紹介するが、既に三千にも喃々とするカバーがあると言われる作品なので、それらの中からご自身のフィーリングにマッチしたものを是非見つけて頂きたい。

 

https://www.youtube.com/watch?v=LDF4_qVgbFU

https://www.youtube.com/watch?v=5bd-9Ocm2pI

 


なお、1978年に日本のコーラスグループ「サーカス」が歌って大ヒットした「Mr.サマータイム」は、フランスのミッシェル・フュガン&ル・ビッグ・バザールによる1972年の作品「愛の歴史(Une Belle Histoire)」のカバーだが、この邦題は、今回取り上げた楽曲との間に色濃く生じた情調の共通性を意識して付けられたように思う。