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朝日のようにさわやかに(Softly, As In A Morning Sunrise)

「時の過ぎゆくままに(As Time Goes By)」と同じく、邦題に些か問題のあるスタンダードナンバーとして、「朝日のようにさわやかに(Softly, As In A Morning Sunrise)」を挙げることができる。

 

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この曲もまた、元々は1928年に公開されたオペレッタ「ニュー・ムーン(The New Moon)」のために書かれた作品で、作詞はブロードウェイ・ミュージカル創成者の一人であるオスカー・ハマースタイン2世(Oscar HammersteinⅡ)、作曲はシグマンド・ロンバーグ(Sigmund Ronberg)の手になるが、冒頭主題はJ.S.バッハの「音楽の捧げもの(Das Musikalische Opfer, BWV1079)」における「2つのヴァイオリンのための同度カノン(Canon 2, a 2 Violini in unisono)」に拠っている。

 

ところで、「ニュー・ムーン」には、やはりスタンダードナンバーとして現在まで命脈を保っている「恋人よ我に帰れ(Lover, Come Back To Me)」も含まれているが、一般的に言って珍しい(少なくとも多くはない)、カンマ","の入った(を入れるべき)タイトルが二つも見られるのは、単なる偶然だろうか。

 


それはさておき、邦題に些か問題あり――とは、「時の過ぎゆくままに」同様、詞の内容に照らしてのことである。

 

以下に拙訳を付して引用した詞をご覧頂けば、これに関して更に言葉を重ねる必要はなかろうと思う。

 

Softly as in a morning sunrise

朝日のようにひそやかに

The light of love comes stealing

新たな日純な心に

Into a newborn day

愛の光は忍び入る

 

Flaming with all the glow of sunrise

熱い口づけが朝焼けとともに燃え上がり

A burning kiss is sealing

偽りに満ちた誓いを

A vow that all betray

きれいに焼き尽くす

 

For the passions that thrill love

熱情は愛を鼓舞して

And take you high to heaven

人を天界へと誘い上げる

Are the passions that kill love

そして一転愛を殺し

And let it fall to hell

それを地獄へ突き落とす

So ends the story

物語のこれが閉幕

 

Softly as in an evening sunset

夕日のようにひそやかに

The light that gave you glory

ときめきを授けたその光は

Will take it all away

やがてすべてを奪い去る

 

Softly as it fades away…

光がそっと褪せるように…

 


では、タイトルの邦訳に際し、なぜ、"softly"を「さわやかに」などとしたのかという点だが、これは恐らく、詞を読むことなく(もしくは把握することなく)――かどうかは定かでないものの、曲を聴いてそのひんやりとした情調に基づき訳出を行ったためだろう。

 

また、仮に「朝日のごとくさわやかに」が本来の訳だとすれば、明治天皇の1909(明治42)年の御詠「さしのぼる 朝日のごとく さわやかに もたまほしきは 心なりけり」をも意識したように思う。

 

 

 

 


ともあれ、この「Softly, As In A Morning Sunrise」が名曲であることは間違いないのだが、そのパフォーマンスには形態の面で大きな偏りが見られる。

 

具体的には、小編成での演奏、特にピアノ・トリオによるものが圧倒的に多いように思われるのである。

 

実際、私が初めて聴いたのは、確か前田憲男トリオによる演奏だったと記憶しているし、ホーンを擁するセッションのアルバムにおいても、この曲(だけ)をピアノ・トリオで奏している例を、以下のように一つならず挙げることができる。

 

ポール・チェンバースPaul Chambers Qiuintet」
マイルス・デイヴィス「In Person Friday And Saturday Nights At The Blackhawk, Complete [Disc 4]」
リー・モーガン「Introducing Lee Morgan

 

これもまた、「Softly, As In A Morning Sunrise」の妙味を前面に引き出すための一策と見做せるかもしれない。

 


では最後に二つ、この曲の秀逸なパフォーマンスをお聴き頂こう。

 

しかしここでは、ピアノ・トリオによらないものを敢えて選んだ。

 

モダン・ジャズ・カルテット(The Modern Jazz Quartet)
ソニー・ロリンズ(Sonny Rollins)