ジャズ入門 on the net|JAZZの名曲・名演を動画で試聴

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時の過ぎゆくままに(As Time Goes By)

「時の過ぎゆくままに」という、非常に味のある邦題に訳されている"As Time Goes By"もまた、元々ブロードウェイ・ミュージカルのために書かれた曲である。

 

作詞・作曲ともハーマン・フップフェルド(Herman Hupfeld)の手になり、1931年、「エブリバディズ・ウェルカム(Everybody's Welcome)」の挿入歌として、劇中ではフランシス・ウィリアムズ(Frances Williams)によって歌われた。

 

しかし、これもまた現在スタンダードナンバーとして定着している曲には珍しくないことだが、「As Time Goes By」もミュージカル公開時にはほとんど注目されず、後に映画の中に使われて一躍脚光を浴びることとなったのである。

 


その映画とは、1942年に公開された、古典的名作としてこれを知らない映画ファンはいないであろう、そしてまた、数々の名台詞が随所に鏤められていることで有名な、ハンフリー・ボガート(リック)とイングリッド・バーグマン(イルザ)主演のアメリカ映画「カサブランカ(Casablanca)」である。

 

その台詞の一部を挙げれば、

 

「君の瞳に乾杯。」(リック)
「昨日は何をしてたの?」―「そんな昔のことは覚えていない」(リック)―「今夜会える?」―「そんな先のことは分からない」(リック)
「自分のことがわからないの。あなたが決めて。」(イルザ)

 

などなど……

 

カサブランカ」公開当時は、銀幕のスターが極めて特別な存在として、この類の台詞を堂々と口にしており、そんな時代への懐旧を籠め、後年沢田研二が「ボギー、あんたの時代は良かった」と詠ったわけである。

 

 

 

 


さて、映画の中では、リックの経営するカサブランカのナイトクラブへ偶然やって来たかつての恋人イルザが、サムの姿を目にして想い出のこの曲をリクエストする。

 

しかし、リックは彼女のことを思い出さないよう、この曲の演奏を禁じており、それを破ったサムを叱責するために現れてイルザと再会――というシーンをはじめとして、効果的に使われている。

 

 

なお、冒頭で非常に味があると述べた「時の過ぎゆくままに」との邦題だが、歌詞の内容からすぐ分かるように、これは原題の意味を正確に反映しているとは言い難い。

 

これは到底見過ごすことのできない欠点であり、この瑕疵ゆえ、日本語としては決して悪くないものの、名訳との評価を博せないのは致し方ないだろう。

 

<Verse>

This day and age we're living in
我々の生きるこの時代は
Gives cause for apprehension
様々な不安を引き起こす
With speed and new invention
速さや新しい発明のほか
And things like third dimension
三次元の世界についても

 

Yet we get a trifle weary
そんなことはもうたくさんだ
With Mr. Einstein's theory
アインシュタインの理論もさ
So we must get down to earth at times
だから時には地に足を着けて
Relax and relieve the tension
息を抜いて緊張の糸を解こう
And no matter what the progress
どんな進歩が果たされようと
Or what may yet be proved
何がこれから証明されようと
The simple facts of life are such
人生のもっとも単純な意義は
They cannot be removed
消し去ることができないのさ

 

<Chorus>

 

You must remember this
心に覚えておくべきだ
A kiss is still a kiss
キスはいつもキスだし 
A sigh is just a sigh
溜め息はやはり溜め息
The fundamental things apply
人の本質は変わらない
As time goes by
たとえ時が流れようと

 

And when two lovers woo
恋人同士は求め合う時
They still say, "I love you"
"愛しているよ"と囁く
On that you can rely
だから信じられるのさ
No matter what the future brings
どんな未来が来ようと
As time goes by...
たとえ時が流れようと……

 


今回は映画に関連する記述が多くなったこともあるので、視聴頂くパフォーマンスもこれに因んだものを二つご紹介したい。

 

ドーリー・ウィルソン(Dooley Wilson)―「カサブランカ」より
デクスター・ゴードン(Dexter Gordon)―「ラウンド・ミッドナイト」より