そりすべり(Sleigh Ride)
この時季、街へ出ると(実はあまり出ないのだけれど……)、さまざまな場所で、同じ曲を、違った形で耳にすることが多い。
そんな曲には、タイトル・メロディともにすぐピンとくるものがある一方、メロディは耳に馴染んでいても、そのタイトルの方は思い浮かばない――あるいは知らない――というものも少なくないように思う。
この後者の一つとして、「そりすべり(Sleigh Ride)」を挙げてよいだろう。
「そりすべり(Sleigh Ride)」はもともと、アメリカの作曲家ルロイ・アンダーソン(Leroy Anderson)が1948年に発表したインストゥルメンタル作品だが、後に同じアメリカの作詞家ミッチェル・パリッシュ(Mitchell Parish)の手で歌詞がつけられた。
なお、作曲者は、ロイ・アンダーソン(Roy Andersson)というスウェーデンの映画監督とは無関係、紛らわしいのでご注意を。
その詞が最初に歌われたのはジョニー・マティス(Johnny Mathis[John Royce Mathis])によってで、「夏の日の恋」などで知られるイージーリスニング界の巨匠パーシー・フェイス(Percy Faith)のオーケストラをバックに従えての極めて豪華なものだった。
そういえば、こちらにもパーシー・ヒース(Percy Heath)というよく似た名前のジャズ・ベーシストがいる……
ところで、この「そりすべり」は、タイトルをはじめ、オリジナルのインストゥルメンタルの情調、さらに詞の内容、いずれも冬をモチーフとしてはいるものの、決してクリスマスに特化した作品ではない。
ここでその詞を、拙訳を付してご紹介しておこう。
Just hear those sleigh bells jingling,
そりの鈴が響いてきたぞ
Ring ting tingling too
リンリン、ティンティン
Come on, it's lovely weather
さあ行こう、君と一緒に
For a sleigh ride together with you
今日は素敵なそり日和
Outside the snow is falling
おもては雪が降っている
And friends are calling "yoo hoo,"
友達は浮かれてユーフー
Come on, it's lovely weather
さあ行こう、君と一緒に
For a sleigh ride together with you.
今日は素敵なそり日和
Giddy yap, giddy yap, giddy yap,
ハイヨー、ハイヨー、さあ走れ
Let's go, Let's look at the show,
そりで景色を見に行こう
We're riding in a wonderland of snow.
不思議な雪の国のショウ
Giddy yap, giddy yap, giddy yap,
ハイヨー、ハイヨー、雄大な
It's grand, Just holding your hand,
景色をしっかり掴むんだ
We're gliding along with a song
歌と一緒にすべっていく
Of a wintry fairy land
冬の妖精に満ちた世界を
Our cheeks are nice and rosy
頬はほんのりばら色に
And comfy cozy are we
乗り心地はよく快適さ
We're snuggled up together
ぴったりと寄り添おう
Like two birds of a feather would be
仲の良い二羽のように
Let's take that road before us
目の前の道をずっと辿り
And sing a chorus or two
声を合わせて歌いながら
Come on, it's lovely weather
さあ行こう、君と一緒に
For a sleigh ride together with you.
今日は素敵なそり日和
これからもお分かりの通り、当然冬の季節全般に亘って聴かれてよいわけだが、特にこの時季、クリスマスシーズンに盛んに取り上げられるようになったのは、直接的には、人々の気持ちを高揚させて商品なりサービスなりの購入を促進したい――との商業的動機からに違いない。
そして、その力を具えた演奏・歌唱に事欠かなかったからこそ、爾来綿々と継続しているのだろう。
実際、ビング・クロスビー、エラ・フィッツジェラルドからカーペンターズ、マライア・キャリーまで、ジャズ、ポピュラーを含む広大なエンターテイメント界の数多のアーティストが、本作を取り上げているのである。
これら有名どころの名を挙げるだけでも、上の十分な証左になるとは思うが、ここではよりジャズ・テイストの強いパフォーマンスを二つご紹介して本稿を終えたい。
https://www.youtube.com/watch?v=YK-i8xfhZkw
https://www.youtube.com/watch?v=6U2K4A4r-Ng