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イパネマの娘(The Girl from Ipanema)

今の時季、午後の眩い陽射しを浴びているとこの曲を聴きたくなる――という人は少なくないと思う。

 

そう、「イパネマの娘(The Girl from Ipanema)」である。

 


わざわざ説明するまでもないだろうが、イパネマはブラジルのリオデジャネイロにあるビーチで、元々この曲は、ミュージシャンのジョアン・ジルベルトと、外交官を務めると同時に詩人としても活躍したヴィニシウス・ヂ・モライスという、二つの特異な才能の生み出した音楽、ボサノヴァ(Bossa Nova)の珠玉の一つだ。

 

 

 

 


1962年、イパネマ海岸近くのバー「ヴェローゾ(Veloso)」には、人気絶頂のボサノヴァのアーティストたちが足繁く通っており、その中にはジョアン・ジルベルト、ヴィニシウス・ヂ・モライス、そしてアントニオ・カルロス・ジョビンの顔もあった。

 

そのヴェローザへ母親の使いの買い物のため時折姿をみせた、エロイーザ・エネイダという当時まだ20歳前の少女を目にしたジョビンとモライスが、その美貌に魅了され、インスピレーションを受けて「イパネマの娘」を書いた――というのもまた、同曲誕生のエピソードとしてよく知られている。

 


その「イパネマの娘」の最も有名なパフォーマンスとして、ジルベルト、カルロス・ジョビンらがアメリカのスタン・ゲッツ(Stan Getz, ts)と吹き込んだアルバム「ゲッツ/ジルベルト(Getz/Gilberto)」におけるものを挙げても、強ち間違いではないと思う。

 

このアルバムの録音・リリースは、本国ブラジルからアメリカへ飛び火したボサノヴァ熱を受けて1962年11月21日にカーネギーホールで行われた、ジルベルト、カルロス・ジョビン、セルジオ・メンデスらによる初のボサノヴァ・コンサートの後、そのままニューヨークに残ったジルベルトが、予てよりこの音楽に大きな関心を持っていたゲッツと知り合い、プロデューサーのクリード・テイラーの協力で実現した。

 

 

 

 


ところで、「ゲッツ/ジルベルト」に収録された「イパネマの娘」では、1コーラス目のみがジョアンのポルトガル語の歌唱で、第2, 3コーラスでは当時ジルベルトの妻だったアストラッドがその歌声を披露しているが、これに関しては、自分を売り込もうとのアストラッドの目論見と、彼女の商業的価値を利用しようというテイラーの打算が、音楽を第一に考えようとのジルベルトおよびカルロス・ジョビンの姿勢を打破した結果――と考えるのが妥当なようで、テイラーの語る「彼女は飛び入りで参加した」というエピソードは、商業上の都合、宣伝効果を狙った捏造らしい。

 

この英語の歌詞はノーマン・ギンベルによるもので、ポルトガル語のオリジナルの詞に比べ数段劣る――というのが定説のようだが、ポルトガル語の知識の全くない当方には原詞の内容は把握できないので、遺憾ながら英詞に拙訳を付してご紹介するに留めたい。

 

Tall and tan and young and lovely
すらりと日焼けした若くて可愛い
The girl from Ipanema goes walking,
あのイパネマの娘が歩いてゆく
And when she passes, each one she passes goes, "Ahhh."
彼女が通り過ぎるとき、誰もが思わずため息をもらす、はァ

 

When she walks, she's like a samba
彼女の歩みはまるでサンバのよう
That swings so cool and sways so gentle,
素敵な身のこなしで優しくゆれる
That when she passes, each one she passes goes, "Ahhh."
だから彼女が通るとき、誰もが思わずため息をもらす、はァ

 

Ooh, but I watch her so sadly
でも、僕は悲しく彼女を見つめる
How can I tell her I love her?
この愛を告げることができないから
Yes I would give my heart gladly
喜んでこの心を彼女に捧げるのに
but each day, when she walks to the sea
いつも彼女は海へ歩いて行ってしまう
she looks straight ahead,
まっずぐ前を見て
not at me
僕には目も向けず

 

Tall and tan and young and lovely
すらりと日焼けした若くて可愛い
the girl from Ipanema goes walking
あのイパネマの娘が歩いてゆく
and when she passes
彼女が通り過ぎるとき 
I smile
微笑みかけても
but she doesn't see..
見てもくれない……

 


上のアストラッドと英語の歌詞に纏わるごたごたに加え、ギンベルがアメリカにおける著作権料の大部分を自らの懐へ入れてしまったこと、さらにゲッツが演奏に盛んに口を出してくる上、風情や情趣などどこ吹く風とブーブー吹き鳴らしたことなどから、ブラジル側メンバーにとっては、このアルバムのレコーディングは相当不満の残るものだったということだ。

 

しかし不思議なもので、アルバム自体は極めて素晴らしいものに仕上がっている。

 

これすなわち、共演ではなく、それぞれが自己の個性や嗜好を忌憚なくぶつけ合う「競演」が見事に結実した一例と言えるであろう。

 

https://www.youtube.com/watch?v=j8VPmtyLqSY

https://www.youtube.com/watch?v=6qGHyu5an1M