ジャズ on the net|JAZZの名曲・名演を動画で試聴

Jazzの歴史から代表的アーティスト、名演奏、スタンダードナンバー、おすすめの名盤まで―YouTubeの動画を視聴しながら、ジャズを愉しむためのツボをご紹介します。

テナーサックス(4)―ハンク・モブレー、コールマン・ホーキンス

ソニー・ロリンズ(Sonny Rollins)とジョン・コルトレーン(John Coltrane)をご紹介し、これでテナーサックス奏者は一段落――と安堵したわけではないのだが、以来、このジャンルの記事は暫くご無沙汰になってしまった。

 

しかし実際は一段落どころではなく、このジャンルにはまだまだ取り上げねばならないアーティストが残っている。

 

先ずはその一人として、「ハンク・モブレー(Hank Mobley、本名:Henry Mobley、1930年7月7日-1986年5月30日」の名を上げよう。

 

なお、原語では"モブリー"と発音されるが、本サイトにおいては我が国の慣例に従った表記としたい。

 

Soul Station

 


さて、そのモブレーは、いくつかの綽名で呼ばれることがある。

 

曰く、「愛すべきB級テナー」「ミスター・テナーマン」「テナーのミドル級チャンピオン」……

 

これらはもちろん、モブレーの特質に由来するもので、実際、その演奏はスタン・ゲッツ(Stan Getz)やズート・シムズ(Zoot Sims)のように柔らかくもメロウでもなく、一方ジョン・コルトレーンのハードで先鋭な響きも具えていない。

 

よく言えば朴訥で堅実だが、聴きようによっては鈍くて野暮と感じられなくもない。

 

ただ、一つ確かなのは、その音楽性が同じミュージシャンの間で高く評価され、ホレス・シルヴァー(Horace Silver, p)の「Horace Silver And The Jazz Messengers」をはじめとする数々のアルバムを通じて、ハードバップの確立と展開に重要な役割を果たしたということだ。

 

 

 

 


その後、モブレーは自身のリーダー・アルバムも次々とリリースしていったが、The Jazz Messengersを通じてのアート・ブレイキー(Art Blakey, ds)との出会いが大きかったことは、1960年代に入って録られた、俗に言うモブレーの三大アルバム「ソウル・ステーション」「ロール・コール」および「ワークアウト」の内、前二作での見事な競演にも見て取ることができよう。

 

なお、複数のテナー奏者による競演盤として有名な、「テナー・コンクラーヴェ(Tenor Conclave)」「ア・ブロウイング・セッション(Blowing Session)」のどちらにも、モブレーはコルトレーンと並んで参加しており、この事実、およびそこで聴かれるプレイは、彼の特質を理解するよいヒントとなるはずだ。

 


トランペッターとの共演も多く、テイストの共通するケニー・ドーハム(Kenny Dorham)はもとより、一見ミスマッチとも思えるリー・モーガン(Lee Morgan)やフレディ・ハバード(Freddie Hubbard)などとも優れた作品を残している。

 

さらに1961年には、脱退したコルトレーンに代わるテナーを探していたマイルス・デイヴィスの目に留まりそのバンドにも加わったが、そこでのアルバム「いつか王子様が(Someday My Prince Will Come)」のタイトル曲でのコルトレーンとの競演こそ、上に挙げた綽名の一つ「愛すべきB級テナー」を決定的にしたものといえよう。

 

よく言われることだが、モブレーのプレイおよびアルバムには出来不出来の差が激しく、特にマイルスとの共演においては、委縮している感じが否めず、ネガティブな方へ傾いてしまっている印象を禁じ得ない。

 


最後にポジティブな事実として、モブレーは作曲能力に恵まれ、数々の魅力あるオリジナル曲を生み出したことを付記して終えたい。

 

リメンバー(Remember)

 

 

 

 


続いて、コールマン・ホーキンス(Coleman Hawkins、1904年11月21日-1969年5月19日)をご紹介しよう。

 

続いて――などと書いたが、その生年からもお分かりの通り、ホーキンスはモブレーなどの大先輩にあたり、実際、「テナーサックス(2)―ズート・シムズ、レスター・ヤング」でも少し触れた通り、このヤングと並んでジャズ・テナーの始祖とも呼ぶべきアーティストだ。

 

Colman Hawkins


9歳で早くもサックスを手にしたというホーキンスは、1922年、こちらはブルースの始祖であるマミー・スミス(Mamie Smith)のバックバンドの一員としてニューヨークへ進出した。

 

翌1923年にはフレッチャ-・ヘンダ-ソン(Fletcher Henderson)楽団に加入したものの、当初はジャズを十分には理解していなかったという。

 

そんなホーキンスに鉄槌のような衝撃を与えたのが、ニューオリンズから到来して同楽団へ加わったルイ・アームストロング(Louis Armstrong, vo & tp)だった。

 

この出来事、さらにアームストロングのパフォーマンスを身近に体感したことによりジャズに開眼したホーキンスは、やがてフレッチャー・ヘンダーソン楽団を代表するアーティストとなり、さらに1934年には渡欧してスウィング・ジャズの大輪の花を当地に咲かせたのである。

 

1939年に帰国して録音した「ボディ・アンド・ソウル(Body And Soul)」は、その硬質な光沢を具えた音色と卓抜した解釈により衆目(耳)を集め、同曲をスタンダード・ナンバーの位置に押し上げるのに大きく与った。

 


その後、スウィングからビバップへとジャズの時代が変わるとともに、前代の多くのミュージシャンが姿を消したのに対し、ホーキンスはこの新潮流も的確に捉え、セロニアス・モンク(Thelonious Monk, p)やマックス・ローチ(Max Roach, ds)といった後進アーティストが世に出るのを助けた。

 

そして1962年、同じくジャズの黎明期からこの世界を切り開いてきたデューク・エリントン(Duke Ellington)との共作「Duke Ellington Meets Coleman Hawkins」を世に送り出し、1963年には、自らを深く敬愛・信奉するソニー・ロリンズとも共演している。

 

ローラ(Laura)

 

 

 

枯葉(Autumn Leaves)

平地ではまだ夏の名残が色濃いかもしれないが、山の上の木々は既にだいぶ色づき、時折散り落ちる葉も見え始めている。

 

この季節、聴かずにはいられない曲がある――と言えば、もうお分かりだろう。

 

そう、数あるスタンダードナンバーの中でも、最も多くのアーティストに取り上げられ、延いては一般の知名度も群を抜いて高いものの一つ、「枯葉(Autumn Leaves)」である。

 


「枯葉(Autumn Leaves)」の原曲は、1945年、ハンガリー出身のユダヤ人作曲家ジョゼフ・コズマが、ナチスの迫害を逃れて移り住んだパリにおいて、バレエ「Rendez-vous=あいびき」のために書いたものである。

 

そして翌1946年、このバレエを元にしたマルセル・カルネ監督の映画「夜の門(Les Portes de la Nuit)」でも用いられることとなり、その脚本を担当したジャック・プレヴェールの手で詞が付され、出演したイヴ・モンタンにより最初に歌われた。

 

その後、知性派シャンソン歌手として名高いジュリエット・グレコがこれを歌ったことで一般に知られるようになり、さらにコラ・ヴォケール、エディット・ピアフらによる歌唱を通じ、先ずはシャンソンにおけるスタンダードナンバーとしての地歩を固めたのである。

 

なお、フランス語のオリジナル・タイトルは"Les Feuilles mortes"、すなわち「死んだ葉」で、「枯葉」と意味合いは通じているものの、こちらが色褪せ干からびながら枝に付いているものも含むのに対し、"Les Feuilles mortes"の方は地面に散り落ちた葉だけを指し、完全に命の糸を絶たれた状態を示すようだ。

 

 

 

 


大西洋の向こうのアメリカへは1949年に渡り、この曲を世に問おうとしたキャピトル・レコードの創立者でもあった作詞家ジョニー・マーサーによって英語の詞が書かれて、タイトルも「枯葉(Autumn Leaves)」としてリリースされた。

 

ジャズにおいては、1952年にスタン・ゲッツが最初にこれをレコードへ吹き込んだのを皮切りに、冒頭でも述べたようにさまざまなアーティストに好んで取り上げられ、まさに百花繚乱・千紫万紅と言うべき現在の様相を呈するに至ったのである。

 


ここで例によって、拙訳を付して詞を引用させて頂こうと思うが、当方遺憾ながら仏語の素養が十分でないため、英詞に基づくこととした。

 

原詞において極めて重要かつ味わい深いものでありながら、アメリカ版の楽曲において省略されてしまったVerse(歌の前説)の部分は、ジェフリー・パーソンズの英訳を元にご紹介する。

 

<Verse>

Autumn leaves fall and are swept out of sight

枯葉が舞い落ち、そして視界から消えてゆく

The words that you said have come true

あなたの口にした言葉が現実になるなんて

Autumn leaves fall and are swept out of sight

枯葉が舞い落ち、そして視界から消えてゆく

So are the mem'ries of love that we knew

そう、わたしたちの愛の記憶もそれと同じ

 

The wind of forgetfulness blows them,

忘却という名の風に吹かれて

into a night of regret

悔恨の闇へと落ちていく

The song you would so often sing

あなたがよく口ずさんでいた歌も

Is echoing, echoing, yet...

ずっとずっとこだましながら…

 

<Chorus>

The falling leaves drift by the window

窓のすぐ外をひらひらと散り落ちる枯葉

The autumn leaves of red and gold

赤と黄に染まったその秋の葉に

 

I see your lips, the summer kisses

あなたの唇、夏の日の口づけを想う

The sun-burned hands I used to hold...

よく握り合った日焼けした手とともに…

 

Since you went away

あなたが去ってからは

The days grow long

一日が長くなった

And soon I'll hear

そして聞こえてくるの

Old winter's song

あの古い冬の歌が

 

But I miss you most of all my darling

最愛のあなたを失った悲しみが胸に痛い

When autumn leaves start to fall...

枯れ葉の散り始めるこの季節には...

 

 

ジャズに名曲はない、あるのは名演奏だけだ――との至言があるが、これは無論、前半と後半を独立に捉えるべきではなく、「ジャズにおいて重要なのは、曲そのものではない、それをどのように料理し、音として具現するかである」と解釈すべきだろう。

 

そして言うまでもなく、名曲であればそれだけ、アーティストのインスピレーションを刺激して名演奏の生みだされる率も高くなるはずだ。

 

「枯葉(Autumn Leaves)」は間違いなくその代表例であり、名演奏も枚挙に暇なく、どれをご紹介すべきか悩ましことこの上ないのだが、ここはもう、敢えて有名中の有名どころを2つ、挙げることにした。

 

"Autumn Leaves"というタイトルをお好きなアーティストの名前と共に検索頂けば、そのパフォーマンスも見つかることが多いと思う。

 

Cannonball Adderley - Autumn Leaves - YouTube

Bill Evans Trio - Autumn Leaves (Take 2) - YouTube