スターダスト=星屑(Stardust)
「夜」をモチーフにしたジャズの名曲は枚挙に暇がない。
そのような数ある宝石の中でも、「スターダスト=星屑(Stardust)」は、魅力・知名度ともにトップクラスに位置する作品と言え、多くのアーティストが好んで取り上げてきたという事実がこれを裏付けている。
作曲者はホーギー・カーマイケル(Hoagy Carmichael)、作詞はミッチェル・パリッシュ(Mitchell Parish)で、次のように歌われる。
And now the purple dusk of twilight time
たそがれ時の紫の夕闇が
Steals across the meadows of my heart
僕の心の草原(くさはら)にしのび込み
High up in the sky the little stars climb
天高く小さな星々が上ると
Always reminding me that we're apart
離れていった君を思い出す
You wander down the lane and far away
小道をさまよい君は去った
Leaving me a song that will not die
消えることない歌を残して
Love is now the stardust of yesterday
今その恋は過去の星屑
The music of the years gone by
過ぎ去りし年月の音楽
Sometimes I wonder why I spend
時折僕は考える、独りで過ごす夜に
The lonely night dreaming of a song
ある歌が心に浮かぶのはなぜだろう
The melody haunts my reverie
その調べが夢に現れると
And I am once again with you
僕はまた君と一緒にいる
When our love was new
二人の愛がまだ新鮮で
And every kiss an inspiration
口づけの喜びに震えた頃のように
But that was long ago
でももうそれは遠い昔
Now my consolation
いま僕を慰めてくれるのは
Is in the stardust of a song
星屑のように煌くあの歌だけ
このように、詞は曲の印象とぴったりフィットする内容だが、実は曲が作られたのは1927年で、詞が成ったのは1929年、その2年後のことである。
また、元々カーマイケルの書いたのは、「納屋の前庭のダンス(Barnyard Shuffle)というタイトルの、アップテンポの曲だった。
それを聴いて、テンポを遅くするようカーマイケルにすすめ、さらに現在知られている「スターダスト」というタイトルを提案したのは、彼の同級生だったスチュアート・ゴレル(Stuart Gorrell)、後に「我が心のジョージア(Georgia On My Mind)」の詞を書くことになる人物である。
1931年にビング・クロスビーが歌って以降、「スターダスト」は数多のヴォーカリストに歌われ続けており、江利チエミ、ザ・ピーナッツ、そして御大美空ひばりによる歌唱もあることから、日本でも特によく知られたスタンダード・ナンバーと言えるだろう。
最後に二つ、エラ・フィッツジェラルド(Ella Fitzgerald)、ジョン・コルトレーン(John Coltrane)によるパフォーマンスをお聴き頂いて本稿を終えようと思う。
https://www.youtube.com/watch?v=lp5uBTsaURI
https://www.youtube.com/watch?v=TeFeLaEsHBs
恋のチャンスを(Taking A Chance On Love)
「恋のチャンスを」あるいはよりシンプルに「恋のチャンス」との邦題をもつ"Taking A Chance On Love"もまた、1940年公開のミュージカル「キャビン・イン・ザ・スカイ(Cabin in The Sky)」に挿入歌として使われた曲である。
良妻ペチュニアと悪女ジョージア・ブラウンとの間で揺れ動くリトル・ジョーの物語が、善と悪それぞれの使者の戦いに絡めて展開されるこのミュージカルは、1943年にヴィンセント・ミネリが初めてメガホンをとった作品として映画化され、さらにベニー・グッドマン(Benny Goodman)の吹き込んだレコードが大ヒットしたことで、ジャズのスタンダードナンバーとして確固とした地位を占めるに至った。
ところで、このスタンダードナンバーについては、作曲がバーノン・デューク(Vernon Duke)、作詞はジョン・ラトゥーシュ(John La Touche)とテッド・フェッター(Theodore "Ted" Fetter)とクレジットされている。
このように作詞者として二人の名が上がっている理由は、「恋のチャンスを」は元々、デュークとフェッターにより「Fooling Around With Love」という作品として書かれていたものを、「キャビン・イン・ザ・スカイ」の公開直前、曲がもう一つ必要になったことから、詞にラトゥーシェが手を入れて成ったため。
その第一コーラスの歌詞を、拙訳を付して引用させて頂くことにしよう。
Here I go again
さあもう一度
I hear those trumpets blow again
胸でトランペットが鳴り出した
All aglow again
すべてのものが輝く今
Taking a chance on love
この恋に賭けてみよう
Here I slide again
もたもたしないで
About to take that ride again
流れに乗り遅れないようにしろ
Starry-eyed again
目を星のように煌めかせ
Taking a chance on love
この恋に賭けてみよう
I thought that cards were a frame-up
トランプさえ八百長だと思っていたから
I never would try
賭けようともしなかった
Now I'm taking that game up
でも人生を賭けるなら今だ
And the ace of hearts is high
ハートのエースは強いのだから
Things are mending now
すべてがいい方へ向かっている
I see a rainbow blending now
空には虹までかかっている
We'll have a happy ending now
きっと素晴らしい結果になるさ
Taking a chance of love
だからこの恋に賭けてみよう
デュークによる曲も、この詞によくマッチした、非常に明るくノリのよいものとなっている。
そのパフォーマンスの一つは、先に「テナーサックス(2)―ズート・シムズ、レスター・ヤング」でもご紹介しているが、ここでさらに二つを挙げて本稿を終えよう。
https://www.youtube.com/watch?v=zojVj99LIi8
https://www.youtube.com/watch?v=fX4PUar1TY8