ジャズ on the net|JAZZの名曲・名演を動画で試聴

Jazzの歴史から代表的アーティスト、名演奏、スタンダードナンバー、おすすめの名盤まで―YouTubeの動画を視聴しながら、ジャズを愉しむためのツボをご紹介します。

A列車で行こう(Take the 'A' Train)

前回に引き続いてジャズの名曲・名演、今回ご紹介するのは「A列車で行こう(Take the 'A' Train)」だ。

 

あらためて言うまでもなく、これは数あるスタンダードナンバーの中でも特に有名なものの一つで、たとえ曲名は知らなくても、そのメロディーはだれもが耳にし、そして記憶のどこかに残っているのではないだろうか。

 

「A列車で行こう」は、デューク・エリントン(Duke Ellington)・オーケストラでピアニスト兼アレンジャーとして活躍したビリー・ストレイホーン(Billy Strayhorn)が作詞・作曲ともに手がけて1941年に発表され、大ヒットした作品である。

 

ヒットしたことに加え、長い間デューク・エリントン楽団のテーマ曲として使われたことにより、その知名度は決定的なものとなった。

 

 

 


この曲のタイトルになっている「A列車」は、ニューヨーク地下鉄の系統番号の1つ。

 

ニューヨーク地下鉄IND(Independent)の系統にA、Bなどの名前が付いており、ブルックリンから8番街(8th Avenue)に沿って北上し、ハーレムを経由してマンハッタン北部へと抜けていく重要幹線が'A'、すなわち「A列車」である。

 


さて、「A列車で行こう」の歌詞は、有名な次の一節で始まる。

 

You must take the "A" train

ハーレムのシュガーヒルへ

To go to Sugar Hill way up in Harlem

お急ぎの方は'A'列車にご乗車ください 

 

この、一見何の変哲もない歌詞に、ストレホーンはアレゴリー(寓意)を込めている。

 

ハーレムはご存知のように黒人街として有名だが、シュガー・ヒル(Sugar Hill)はウエスト・ハーレムの中のちょっと高台になったところにあり、黒人の中でも医師や弁護士などの知識階級をはじめ、企業家や芸能人といった収入の高い人たちの住む高級住宅地で、ニューヨークの黒人にとってはここに住むのがあこがれとなっている場所なのだ。

 

また、ウエスト・ハーレムの125丁目には黒人芸能の殿堂として有名なアポロ・シアターがあり、さらにコットン・クラブでは、1920年代にエリントン自身が演奏を重ねていた。

 

すなわち、素晴らしい音楽を聴きたいなら、そしていい暮らしをしたいのなら、ハーレムへ行け、そこへ一番早く着くには'A'列車に乗ればいいのさ――

 

というわけである。

 


曲は続けてこう歌われる――

 

If you miss the "A" train

'A'列車に乗り遅れますと

You'll find you've missed the quickest way to Harlem

最速でハーレムへ着くことはできなくなります

 

Hurry, get on

お急ぎください

Now it's coming

間もなく列車の到着です

Listen to those rails a-thrumming

レールの軋みも響いてきました

 

All aboard! Get on the "A" train

発車します! 'A'列車にご乗車ください

Soon you will be on Sugar Hill in Harlem

シュガーヒルへはすぐに到着いたします 

 

 

では最後に二つ、いつも通りこの曲の名演をお聴き頂こう。

 

Ella Fitzgerald & Duke Ellington

https://www.youtube.com/watch?v=dQnNnPLC_b4

 

Ray Bryant

https://www.youtube.com/watch?v=PucRwx9XBhM

 

 

マイ・ロマンス(My Romance)

ジャズ・アルトサックス・プレイヤーが二回続いた後の今回は、スタンダード・ナンバーへ戻って「マイ・ロマンス(My Romance)」をご紹介したい。

 

この曲は、1935年に初演されたミュージカル「ビリー・ローズのジャンボ」の主題歌として、詞はリチャード・ロジャース(Richard Rodgers)、曲はロレンツ・ハート(Lorenz Hart)という黄金のヒットメーカーによって生み出された。

 

本家本元のミュージカルにおいては、グローリア・グラフトンとドナルド・ノヴィスが披露し、1962年公開の映画版では、ドリス・デイがこれを歌っている。

 

その歌詞を拙訳を付して引用させて頂くと――

 

My romance doesn't have to have a moon in the sky

わたしの愛の物語には月なんかいらない

My romance doesn't need a blue lagoon standing by

青い珊瑚礁がすぐそばになくてもいい

No month of may, no twinkling stars

緑輝く5月も、煌めく星もいらない

No hide away, no softly guitars

人目を忍ぶ場所も、優しいギターの音も

My romance doesn't need a castle rising in spain

聳え立つスペインのお城なんかいらない

Nor a dance to a constantly surprising refrain

めくるめく旋律に合わせて踊らなくてもいい

Wide awake I can make my most fantastic dreams come true

目が醒めていたって、わたしはどんな素敵な夢も見られるから

My romance doesn't need a thing but you

わたしの愛の物語には、あなた以外は何もいらない

My romance doesn't need a thing but you

必要なのは、そう、ただあなただけ

 

 

「あなたさえいてくれたら、ありふれた愛の小道具なんか必要ない――」という、皮肉な見方をすればそれ自体陳腐な内容ではあるけれども、そこは何と言っても名手の手になる作品、実に見事に仕上げられている。

 

 

 


この「マイ・ロマンス」は、ミュージカル、さらには映画を通じて多くの人々の耳を捉えたこともあり、ポピュラーからジャズに亘り数多のカヴァーがなされた。

 

その代表的パフォーマンスとしては、先に「ピアノ(4)―ビル・エヴァンス」においてご紹介したものが有名だが、他にも各アーティストがそれぞれの個性を発揮して、この曲にさまざまな彩を与えている。

 

jazz-cafe.hatenablog.com

 

上のページで挙げたものとともに、次の二つの動画で、それをご堪能頂きたい。

 

https://www.youtube.com/watch?v=Rd-dlunIGGA

 

https://www.youtube.com/watch?v=7Q280CTe3K4