A列車で行こう(Take the 'A' Train)
前回に引き続いてジャズの名曲・名演、今回ご紹介するのは「A列車で行こう(Take the 'A' Train)」だ。
あらためて言うまでもなく、これは数あるスタンダードナンバーの中でも特に有名なものの一つで、たとえ曲名は知らなくても、そのメロディーはだれもが耳にし、そして記憶のどこかに残っているのではないだろうか。
「A列車で行こう」は、デューク・エリントン(Duke Ellington)・オーケストラでピアニスト兼アレンジャーとして活躍したビリー・ストレイホーン(Billy Strayhorn)が作詞・作曲ともに手がけて1941年に発表され、大ヒットした作品である。
ヒットしたことに加え、長い間デューク・エリントン楽団のテーマ曲として使われたことにより、その知名度は決定的なものとなった。
この曲のタイトルになっている「A列車」は、ニューヨーク地下鉄の系統番号の1つ。
ニューヨーク地下鉄IND(Independent)の系統にA、Bなどの名前が付いており、ブルックリンから8番街(8th Avenue)に沿って北上し、ハーレムを経由してマンハッタン北部へと抜けていく重要幹線が'A'、すなわち「A列車」である。
さて、「A列車で行こう」の歌詞は、有名な次の一節で始まる。
You must take the "A" train
ハーレムのシュガーヒルへ
To go to Sugar Hill way up in Harlem
お急ぎの方は'A'列車にご乗車ください
この、一見何の変哲もない歌詞に、ストレホーンはアレゴリー(寓意)を込めている。
ハーレムはご存知のように黒人街として有名だが、シュガー・ヒル(Sugar Hill)はウエスト・ハーレムの中のちょっと高台になったところにあり、黒人の中でも医師や弁護士などの知識階級をはじめ、企業家や芸能人といった収入の高い人たちの住む高級住宅地で、ニューヨークの黒人にとってはここに住むのがあこがれとなっている場所なのだ。
また、ウエスト・ハーレムの125丁目には黒人芸能の殿堂として有名なアポロ・シアターがあり、さらにコットン・クラブでは、1920年代にエリントン自身が演奏を重ねていた。
すなわち、素晴らしい音楽を聴きたいなら、そしていい暮らしをしたいのなら、ハーレムへ行け、そこへ一番早く着くには'A'列車に乗ればいいのさ――
というわけである。
曲は続けてこう歌われる――
If you miss the "A" train
'A'列車に乗り遅れますと
You'll find you've missed the quickest way to Harlem
最速でハーレムへ着くことはできなくなります
Hurry, get on
お急ぎください
Now it's coming
間もなく列車の到着です
Listen to those rails a-thrumming
レールの軋みも響いてきました
All aboard! Get on the "A" train
発車します! 'A'列車にご乗車ください
Soon you will be on Sugar Hill in Harlem
シュガーヒルへはすぐに到着いたします
では最後に二つ、いつも通りこの曲の名演をお聴き頂こう。
Ella Fitzgerald & Duke Ellington
https://www.youtube.com/watch?v=dQnNnPLC_b4
Ray Bryant
https://www.youtube.com/watch?v=PucRwx9XBhM