クリスマス・ジャズ(1)―ダイアナ・クラール、エディ・ヒギンズ
現在続けている、代表的アーティストのシリーズを小休止して、この時季に相応しいアルバムをご紹介しようと思う。
名付けて、クリスマス・ジャズ。
まず初めに、ダイアナ・クラール(Diana Jean Krall)の「クリスマス・ソングズ(Christmas Songs)」を取り上げたい。
これまで、私の個人的嗜好もあって、どうしても往年のアーティストの紹介が中心となって来たけれど、このダイアナ・クラールは1964年生まれのヴォーカリスト・ピアニストで、現在も精力的な活動を展開している。。
本アルバムに収録されているのは、いずれもスタンダード・ナンバーを超越した有名曲ばかり。
従って、曲名を見て、「ああ、あれか、」と耳に思い浮かぶものも少なくないに違いない。
が、それらに施された味付けには、ジャズに馴染みの薄い人はかなり新鮮な印象――以上に、戸惑いさえ覚えるかもしれない。
しかしながら、聴きこんでいるうち、次第次第にその妙味がわかるようになり、やがて、従来の料理の仕方では、よほどの名調子を除いて飽き足らなくなる危険性を孕んでいる。
とはいえ、そのような心配は実際に鬼が出てからすればいいこと。
しっとりとしたバラードからスウィンギーなアップテンポまで、時にビッグバンドを従え、時にはシンプルな伴奏にサポートされた魅惑のアルトの中から、ここでは一曲お聴き頂こう。
もう一枚、エディ・ヒギンズ・トリオ(Eddie Higgins Trio)による、図らずも同じタイトルの「クリスマス・ソングズ(Christmas Songs)」。
ヒギンズの生まれは1932年と、ジャズの黄金時代を経てきたピアニストである。
彼の活動は、他のアーティストのセッションにサイドマンとして参加することが主体で、自身のリーダー作をリリースしたのは1958年と遅く、しかもそれが話題となることもほとんどなかった。
実際、独自の個性の顕示や革新的なアプローチによるジャズへの影響という点では、これまでにご紹介してきたアーティストたちとは比ぶべくもない。
ただ、その職人的ともいえる堅実な力量は、ヒギンズの息の長い経歴が如実に示すところであり、また、1990年代に入って、日本のレーベルから数々のアルバムを世に送り出したことも、その遅い開花と言えるのではなかろうか。
このアルバムには、そんなヒギンズ率いる正統的ピアノ・トリオによる、肩肘張らないリラックスしたパフォーマンスが凝縮している。
ダイアナの一枚と共通する曲が多いので、ヴォーカルとインストゥルメンタル、さらにはより広く両アーティストの音楽に対する感性を聴き比べるのも愉しいと思う。
これもこの時季定番の次曲をご紹介して、本稿を閉じる。
・ウィンター・ワンダーランド(Winter Wonderland)